雨の指の

文章の練習。チェコを中心に、映画、美術、音楽のこと。

クリストファー・ノーラン監督『インターステラー』(2014)

※軽くネタバレあり。  

インターステラー [DVD]

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 新年一発目は弟の主催で『インターステラ―』鑑賞会となった。

 全世界的な干ばつによって人類が滅亡へと向かっている時代。軍隊が解体され、人々が科学を忘却し、アポロ計画すら「捏造」として教科書に載る時代。アメリカは秘密裏に新生NASAを立ち上げ、土星近辺に出現したワームホールから別銀河への入植の可能性を探っていた。元宇宙飛行士の主人公クーパーは、娘であるマーフの部屋に突然あらわれた謎のサインに導かれてNASAの基地にたどり着き、入植に適した惑星を探査するチームの一員として、ワームホールの向こう側へと旅立つことになる。

 ワームホールブラックホール、そして洗練されたメカのデザインにはただただ多幸感を覚えるばかりだ。特に軍事ロボット、TARSとCASEが素晴らしい。細かく分割された直方体からなり、基本形態は銀色のモノリスといった風情だが、折りたたまれた各部をくるくると自在に動かすことでスペクタキュラーな機動性と器用さを実現している。

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 TARSは海兵隊仕込みのおしゃべり屋(正直度は90パーセント、ユーモアは75パーセントにセットされている)、CASEは対照的に寡黙で真面目。どちらもかわいい。

 人類という種を賭けた任務のために同胞の共同体から切断されるというアンヴィヴァレントな状況の中で、宇宙飛行士たちは家族への愛情や人恋しさといったセンチメントのために深刻に葛藤する。このあたりの描写はなかなか楽しめる。ただ、メンバーの一人であるアメリアが私情を堂々と押し出してチーム全体の目的地を決めようとするシーンには苛立ちを感じた(このシークエンスで見られる「感情的な女性vs理性的な男性」のステレオタイプも実にいただけない)。

 しかしノーランは私情も人類も両方救おうとするので、後半の展開が全体から浮くほどに御都合主義的なものになっている。ブラックホールが子供部屋の本棚の裏側に通じているというシチュエーション自体は、ジュヴナイル・ファンタジーふうで素敵なのだけれども。クーパーが本棚空間で娘にメッセージを託して死んでしまう方が渋くて良かったような気もする。

ところであの本棚空間は、要はPCゲームのコンソールモードというか、ヴィジュアル的にはNoclipでゲーム空間のそとに出た感じだな。