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雨の指の

文章の練習。チェコを中心に、映画、美術、音楽のこと。

ペドファイルがまっとうに生きるということ――ドキュメンタリー映画『ダニエルの世界』

チェコ・テレビ制作のドキュメンタリー映画『ダニエルの世界』(原題:Danielův svět、ヴェロニカ・リシュコヴァー監督、2014年)を観に、ヴァーツラフ広場にほど近い映画館キノ・スヴィェトゾルに足を運ぶ。

 


Danielův svět / Daniel's World - YouTube

 

ダニエルは25歳のチェコ人の青年。小学校低学年に相当する年齢の男児にしか性的魅力を感じないペドファイルで、プラハの文学アカデミーに通いながら詩や小説、戯曲を書いている。彼の性的志向を知っているのは、母親とごく身近な友人たち、セクソロジストの主治医、そしてインターネットで知り合った小児性愛者のコミュニティ。

彼はある友人の幼い息子ミーシャに恋心を抱いている。「ただ、少し年上の良き友人でありたいだけなんだ」とダニエルは言う。この友人が「もしかして同性愛者なのか?」と尋ねてきた時、ダニエルは自分がペドファイルであることとミーシャへの恋心を打ち明けた。友人の返事はこうだった「お前がこれまで通りうちに遊びに来てくれれば、いつだって歓迎するよ。でも、万が一息子に手を出したら、俺はお前の腕を折るからな」。ダニエルは「そんなことは絶対にありえない」と答えた。

 

ペドファイルとして生きるということは、単に自らの性的嗜好を他人に隠さなければならない、というだけの問題ではない。相手に対して自らの恋心を表明すること、愛し合ったりセックスをすることが不可能であり、そしてみずからの愛した相手と家庭を持つ道が根本的に閉ざされているということだ。チェコでは日本に比べてずっと奔放なセックスの文化があるが、そうした風土でペドファイルが日々少なからぬプレッシャーを受けているであろうことも想像に難くない。「性的満足を得られることが絶対にないんだろ?」と問いかける友人に、ダニエルは冗談をかえす。「そんなの、右手があれば足りるよ。ちょっと変わったことをしたかったら左手を使えばいい」

それでも子供たちを大切にして生きていきたい、というのがダニエルの希望だ。子供に笑いかけたり、目を合わすことにすら罪悪感を抱いてしまっていたダニエルは、たとえペドファイルであっても他の人と同じように子供たちに接し、愛するミーシャの良き友人でありたいと願うようになる。それはまた、彼自身がみずからのありかたを肯定する唯一の方法であったろう。その希望を胸に、ダニエルはペドファイルの仲間たち数人とともにLGBTパレードPrague prideに参加する。「"カミングアウト"するのは同性愛者だけじゃない」という白黒のシンプルな、すこし謎めいたフラッグを掲げて、賑々しいパレードの後ろをひっそりと行く。

 

ミーシャと彼の家族は、「カミングアウト」の後しばらく連絡が取れなくなったものの、最終的に以前と変わらずダニエルを受け入れてくれた。国際会議で講演の席に立ったダニエルは語る「どうかチェコの人々に、ペドファイルもまた子供たちの味方であると知ってほしいのです」。