雨の指の

文章の練習。チェコを中心に、映画、美術、音楽のこと。

『野火』雑感

今年最初に観た映画は塚本晋也監督の2015年の作品『野火』だった。公開時比較的評判が良かったのと、去年大岡昇平の小説を読んで魅了されたので。 ジャングルを彷徨う兵士の、死の間際で極端に引き伸ばされた時間――南国の濃密な自然のなか、四方を死に取り囲…

わかりにくいリアリティはいかにして受け止められるのか―森達也『FAKE』

気付けば実に5カ月ぶりのブログ更新だが、またドキュメンタリー映画の話題だ。劇映画にくらべ、ドキュメンタリーにはそこで観たものについて語らなければという気持ちを強く触発される。 大阪・十三の第七藝術劇場で、森達也監督『FAKE』を観る。森監督の代…

私、オルガ・ヘプナロヴァーは…

第66回ベルリン国際映画祭が行われているわけだが、パノラマ部門のオープニングを飾ったのはチェコの映画だった。 www.youtube.com Já, Orga Hepnarová チェコ/スロヴァキア/ポーランド/フランス、2016年 監督: Petr Kazda, Tomáš Weinreb オルガ・ヘプナ…

チェコのラジオから

チェコのラジオにはラディオ・ヴェイヴ(Radio Wave)というチャンネルがあって、一日中インディーロックとかエレクトロニカとかアンダーグラウンド系の音楽ばかりかかっている。ネットストリーミングの他、Tuneinなどのアプリでも聴くことが出来る。以前この…

ズデニェク・コシェク

Facebookのフィードで、先月末にズデニェク・コシェク(Zdeněk Košek) が亡くなっていたことを知る。 Zemřel malíř, jenž řídil světové počasí • RESPEKT 「世界の天候をつかさどっていた画家が亡くなった」 ヘンリー・ダーガーやルボシュ・プルニーらと共に…

クリストファー・ノーラン監督『インターステラー』(2014)

※軽くネタバレあり。 インターステラー [DVD] 出版社/メーカー: ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメント 発売日: 2015/11/03 メディア: DVD この商品を含むブログ (1件) を見る 新年一発目は弟の主催で『インターステラ―』鑑賞会となった。 全世界…

朝井リョウ『何者』に翻弄される話

何者 (新潮文庫) 作者: 朝井リョウ 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2015/06/26 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (8件) を見る 朝井リョウの名前を意識したきっかけは、大学でコピー機の順番待ちの間になんとなく手に取った、たしか生協の、フリーペー…

ミハルについて

ミハルはコラージュを作っている。多くのイメージがふり積もり、押し固められ、鉱石になったようなコラージュ。本人の見た目はハンガリー映画『ヴェルクマイスター・ハーモニー』の主人公ヴァルシュカに似ている。ひとつの時代が崩壊するときに、彼がプラハ…

自我の未確立とその影響

ほとんど半年ぶりのブログ更新が長々とした自分語りというのもどうなのかとは思うけれど、自分のことについて、これまであまり考えたことのなかった長期的な問題を自覚し始めているので、ちょっと書きとめておこうと思う。 わたしは元来、非常に他者依存的な…

ペドファイルがまっとうに生きるということ――ドキュメンタリー映画『ダニエルの世界』

チェコ・テレビ制作のドキュメンタリー映画『ダニエルの世界』(原題:Danielův svět、ヴェロニカ・リシュコヴァー監督、2014年)を観に、ヴァーツラフ広場にほど近い映画館キノ・スヴィェトゾルに足を運ぶ。 Danielův svět / Daniel's World - YouTube ダニエ…

Paavoharju/パーヴォハルユ - 冬と憂鬱と北欧アンビエント

プラハにも本格的な冬が到来した。雪が降り、トラムが止まり、街の木々が凍りつく。とにかくまったく日が射さないのが瀬戸内育ちの人間としてはつらく、11月中旬ぐらいからひどく憂鬱な気分で日々を過ごしていた。その時延々と聞いていたのが、フィンランド…

【映画覚書】大学の講座と、アンドレイ・タルコフスキー『鏡』

大学で「シュルレアリスムと中・東欧映画」という留学生向けの講座を取っている。毎週一本映画を観て英語でディスカッションするというもので、ブニュエルやシュヴァンクマイエルなど定番ともいえる監督の作品から、運動としてのシュルレアリスムとは関係が…

Jack White Live @ Forum Karlín 13.10.2014

もう3日前のことになるが、プラハ8区のForum Karlínで行われたジャック・ホワイトのライヴに行ってきた。 ザ・ホワイト・ストライプスを聴き始めたのが『エレファント』が出たすこし後だから、ジャックのことはちょうど10年追っていることになる。彼のレーベ…

【映画覚書】The Reincarnation of Peter Proud

特に理由はないのだけれど、ここしばらく人間嫌いともいうべき気分にさいなまれている。人に会いたくないし、SNSで言葉も交わしたくない。だからすこしそういったことから撤退して1日中映画を観ていた。何もしないで寝ているよりはずっといい。英語のヒアリ…

【映画覚書】『食人族』

10年とちょっと前、中学生のころに好んで見ていたWebサイトにマジソンズ博覧会がある。マジソンズに日参する女子中学生なんてその時点でいろいろお察しくださいといったところなんだけれど、それはそれとして、特に岸田裁月氏の最低映画館は愛読、いやほとん…